昨日(14日)、パルコ・プロデュース 作・蓬莱竜太 演出・栗山民也「母と惑星について、および自転する女たちの記録」(紀伊國屋ホール)を観た。
動機は作・蓬莱竜太であるが、もともと関心があったわけではない。むしろ知らなかった。知ったのは、来月に照明家・松本大介君が「まほろば」(東京芸術劇場)の照明デザインをするので、切符を取ろうとして調べている内に、作者の蓬莱竜太の芝居が3月にもかかることを知り、ぴあを開いたら、切符が取れたので観たというところである。初めて観た蓬莱竜太は素晴らしかった。この人、「モダンスイマーズ」という劇団の主宰者のようで、早速そちらも調べなくてはならない。
突然、母(キムラ緑子)が死んだ。残された三姉妹(田畑智子・鈴木杏・芳根京子)は、母の遺骨を散骨すべくトルコのイスタンブールに当てのない旅に出る。なぜ、イスタンブールか?スナックのママだった母は、酔っぱらって「飛んでイスタンブール」をいつも歌っていたから、行ったことのないイスタンブールに散骨してやろうと思ったのである。三姉妹のそれぞれが母との思い出を語るモノローグと瞬時に母が現れて過去が再現されるという形で芝居は進む。
父は三女(芳根京子)が4歳の時に家を出て行って行方知らず。母はスナックを経営しながら三姉妹を育てる。酒におぼれ、行きずりの男に縋っては騙される母を見ながら娘たちは育つ。三姉妹それぞれに母への思いと母との葛藤がある。また、三姉妹間の母をめぐる葛藤もある。知らない異国で、長女(田畑智子)が絨毯詐欺にあったりして笑わせながら、旅の中で、母を巡る家族の葛藤があらわになっていく。三姉妹それぞれに夫や恋人との葛藤も抱えている。自分の中にある母親性に怯えている。自分も母親のように子供を苦しめる存在になってしまうのではないかという恐れに怯えている。
キムラ緑子さんがすごい。酒におぼれ男におぼれるだらしない母親であるとともに、三人の娘をそれなりに育てる強い母親の姿を表現してすごい。田畑さん、鈴木杏さんが手堅いのは知っている通りだが、意外だったのは芳根京子さん。朝ドラのヒロインで知っていたが(私は昔から朝ドラは欠かしたことはない)、これほどの女優さんとは知らなかった。主役といっていい難しい三女の役を好演だが、特に終盤近くの母との壮絶な喧嘩シーンの演技は圧巻である。名優と言っていいキムラ緑子さんに一歩も引かぬ迫力を出している。綺麗なアイドル的存在と思っていたのは大間違い、素晴らしい女優さんである。
あてのない旅をつづけながら娘たちは母との思いを乗り越え、自立の道を見つけていく。ラストシーン、イスタンブールの高台から、母の骨がさらさらとまき散らされる。細い筋になった砂のような骨の落ちる様が美しい。たった4人の女優さんで休憩挟んで2時間半の舞台を母と娘たちの葛藤を描きながら、ほどよい笑いを交えて緊張感のある良い舞台であった。ダブルのカーテンコールは義理ではなく、観客の絶賛であった。
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