3月22日(金)14:00開演 劇団新人会公演 作・福田善之:演出・尾崎太郎「新・ワーグナー家の女」(上野ストアハウス)を観た。動機は、昨年5月の劇団櫂人公演でご一緒した永野和宏さん(新人会)に誘われてのことである。お付き合い気分で行ったのだが、観終わって素晴らしい舞台を観ることができた。
ナチス・ヒトラーは、リヒャルト・ワーグナーの楽劇をこよなく愛し、ナチス党大会でも演奏させた。ワーグナーの音楽は世界文化史に残る普遍性とともに、ナチス・ヒトラーを彩る負の政治性を持たざるを得ない。そんなワーグナー家に嫁に入り、ヒトラーの下でのワーグナー音楽を取り仕切った母・ヴィニフレッド・ワーグナー(萩原萌)と、ワーグナー家に生まれながら、ナチスにのめりこんでいく母に反抗し、亡命して反ナチの活動をする娘・フリーデリント・ワーグナー(亀井奈緒)との対決の物語。
舞台は第二次世界大戦が終わり、ナチスの戦争責任が問われている時代。戦争犯罪を裁く軍事法廷に母は召喚される。「私が何をしたって言うの?ドイツ国民の99.8%がヒトラーを選んだのよ。その事実を否定しようって言うの?そういうのを卑怯って言うのよ!」。あくまでも自己の正当性を主張する母。アメリカに亡命して反ナチ活動を続けてきた娘は母に叫ぶ。「アウシュビッツの上に鳴り響くお祖父さまの音楽がお母様の仕事なのね!」。娘は、ナチスの行った「人道に対する罪」を徹底的に追及する。
古典的音楽の戦争責任という難しい議論をしながらシーンのつなぎ目には男優5人の身体的パフォーマンスが入って息をつく。アウシュビッツの虐殺を表すパフォーマンスも見事だし、特にラスト近くの日本人に虐げられた植民地下の朝鮮人を表すパフォーマンスはプロのダンサーのようだが圧巻である。また、ちょっと前までTV・映画の名脇役の一人だった前田昌明さんを久しぶりに見た。調べたら86歳だそうだ。段から降りるときに若い男優が手を差し伸べて助けていたが、86歳で舞台俳優現役とは見事である。76歳の私は勇気づけられた。
日本の現役政治家が「ナチスの手口を学べ」と軽々しく発言して騒動になったけれど、私たちはあの時代の歴史を学ばなければならない。「歴史から教訓を学ばぬ者は、過ちを繰り返して滅びる」とチャーチルは言った。過ちは繰り返してはならないと思わせる良い舞台だった。永野さん、有り難うございました。
Comments